奈良地方裁判所 平成4年(行ウ)6号 判決
原告
吉田淳一(X1)
同
小川ひろ子(X2)
同
木興修三(X3)
同
小鍛冶隆一(X4)
右四名訴訟代理人弁護士
中本勝
同
以呂免義雄
被告
奈良市(Y)
右代表者市長
大川靖則
右訴訟代理人弁護士
田中幹夫
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 照応の原則
1 土地区画整理法(以下「法」という。)は、仮換地をする場合、仮換地及び従前地の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならず(法九八条二項、八九条一項)、例外として、鉄道等の施設の用に供している宅地、地方公共団体が設置する公会堂、劇場、音楽堂等の用に供している宅地については、その位置、地積等に特別の考慮を払うことができる(法九八条二項、九五条一項、同法施行令五八条)としている。
そして、「照応する」とは、従前地と仮換地とが、通常人がみて、大体同一条件にあると認められるものでなければならないこと(いわゆる縦の照応)、九五条が適用される場合を除き同一事業の施工地区内における他の権利者との公平が保たれていること(いわゆる横の照応)をいうと解される。
2 市街地、商店街における土地区画整理事業での仮換地の指定においては、仮換地指定の基準として仮換地及び従前地の価格が重要な要素となる。もっとも、土地区画整理後の価格は事柄の性質上、事後的な予測にならざるを得ず、また、法の規定の趣旨からして経済的な価値が照応すれば面積、位置、形状等は無視するということはできない。そして、市街地、商店街においては、その地積、位置、間口、区画の大小長短は営業にとって極めて重大であるから、宅地の価格のみを仮換地指定の基準とすることはできず、地積、位置、形状、環境、利用状況等も考慮すべき要素になり、現に被告の作成した本件換地設計基準においても、面積、位置、形状、割当画数を考慮している。
3 従前地と仮換地の土地評価方法としては、事業の特質、目的等からいわゆる路線価評価法が最も適切なものであるというべきである。
ただし、路線価評価方法を実際の地区に適用する場合、それによって得られる宅地の相互的価格差が客観的に妥当性を有しているか否か、すなわち、<1>整理前又は整理後において、不動産鑑定評価額や固定資産評価額等他の土地価格に関する資料によって得られる価格のポイント毎の相対的格差と概ね近似しているか否か、<2>整理前後の価値の増進の程度が、近傍の類似地区等と比較し、概ね妥当なものであるか否か、また、その増進の程度は各筆間において著しく相互のバランスを失するものでないか、という点が検証されるべきである(乙一五の二七頁から三三頁参照)。
二 以上の観点から本件仮換地指定について検討する。
1 土地評価について
別紙図面三のとおり、第一仮換地は東側が芝辻大森線(一六メートルの幅員、別紙図面三のR65)、南側が七・五メートル道路(同R77)、西側が六メートル道路(同R76)とされており、南側には大森高畑線(二五メートルの幅員)が高架道路のまま計画されている(乙八の六頁(公共施設別調書)、甲三の5ないし7)。また、別紙図面四のとおり、第二仮換地も右大森高畑線に近接している。このように南側に高架道路が存在する場合には、平面で他の土地に接する場合と異なり、都市機能が高架道路により分断され、いわば近隣に一種の壁が存在するようなものであって、右高架道路からの騒音、排気ガス等による環境の悪化を一方的に受ける結果となりやすい。しかるに、別紙図面三のとおり被告の土地評価ではR77の評価指数はR76と同じ八五〇となっており、同図のR75の評価指数八六〇と比較して一〇しか違わない。したがって、被告のした本件仮換地指定の土地評価は、第二仮換地のそれも含めて右高架道路の存在を十分に考慮したものと認めることができず、これが適切にされているかは疑問であって、本件仮換地指定は、この点で照応の原則に適合するということはできない。
2 位置について
(一) 別紙図面一のとおり、本件仮換地が本件従前地に比較して開発地域に中心に近い位置から南端の方に移転し、また、前記のとおり第一仮換地の南側に高架道路があるため環境等が必ずしも良くなるとはいえない。
(二) 建設省作成の土地区画整理設計標準(昭和八年七月二〇日発都一五号各地方長官・各都市計画地方委員会長あて内務次官通達、改正昭和四一年三月三一日建設省発書第一二七号)第二の四イ三は、「原位置ヲ尊重シテ配当スルコト但シ原位置ニ配当スルコトヲ得ザル土地ニ対シテハ其ノ附近地ニ配当スルモノトス」と定めており、同じく建設省作成の換地設計基準案(乙一六末尾添付)からしても、現地換地が原則であり、すくなくとも近傍に仮換地すべきことが期待されているものである。
ところで、被告は、多目的市民ホールを建設するため、被告が買受けた旧国鉄用地であった別紙図面一の桃色で塗りつぶされた土地を一六街区の同図の桃色で囲まれた区画に仮換地し、その影響で原告らに対する仮換地も南へ押し出されざるを得なかったと主張するので、この点が合理的か否かを検討する。
証人今中の証言によれば、旧国鉄用地仮換地の減少率は四五パーセント前後であることが認められる。しかし、右仮換地は、別紙図面一のとおり、五つに分かれていた土地がJR奈良駅正面の一六街区ほとんど(残りも公園)の四方路線地となり、その減歩率が四五パーセント前後であっても極めて被告に有利な仮換地といわざるを得ない。
地方公共団体が設置する公会堂、劇場、音楽堂等の用に供している宅地については、その位置、地積等に特別の考慮を払うことができる(法九八条二項、九五条一項、同法施行令五八条五項)が、旧国鉄用地は「公会堂、劇場、音楽堂等の用に供している宅地」ではない。また、法九五条三項により主として当該換地計画に係る区域内に居住する者の利便に供するものの用に新たに供すべき宅地については創設的な換地をすることができるが、多目的ホールは奈良市民全体の利便に供するもので、「主として本件換地計画に係る区域内に居住する者の利便に供するもの」ともいえない。したがって、本件においては法九五条一項、三項の適用はない。結局、旧国鉄用地換地により施行区域内の他の権利者が不利益を受けることを許容することは困難であって、本件仮換地はこの点でも照応の原則に適合するとはいえない。
3 減歩率について
(一) 本件仮換地指定の減歩率が約三八・五九パーセントとなることは当事者間に争いがない。
前記(第二の一3(四))のとおり、本件の公共減歩率は二五・〇パーセントであり、JR西日本所有地はほとんど減歩されていないから、これと公衆用道路であった民有地を除いてJR西日本以外の者にされた公共減歩率は約二九パーセントとなる。これは、新たに駅前広場として約六〇〇〇平方メートル、道路として約三万三〇〇〇平方メートルが創設(なお、水路・河川約三五〇〇平方メートルはその分減少している)されたためであり、設計自体、相当に区域内の権利者の負担を強いるものである。
しかも、本件仮換地指定は、JR西日本所有地と公衆用道路であった民有地を除いた公共保留地合算減歩率約三一パーセントを七パーセント以上上回っており、原告らに対して他の権利者よりも重い負担を強いるものである。
(二) 区画整理により土地の価値が高くなったとしても、永続的な土地所有者にとって重要なことは、土地の交換価格ではなく、その利用価値であると考えられるのであるから、本件仮換地指定のように減歩率の割合が高い場合、区画整理により仮換地に特別の便益が認められることが必要である。
前記建設省作成の土地区画整理設計標準第二の一イが「道路、水路、小公園及小学校ノ敷地ニ依ル民有地ノ減歩率ハ二五『パーセント』以内ヲ以テ目途トスルコト従テ民有地ノ減歩率ヲ過大ナラシムル事情アルモノニ付テハ特ニ設計ノ細部ニ付考慮スルコト」としているのも、右の趣旨を含むと解される。しかるに、右の第一仮換地の土地評価について疑問があることは1に述べたとおりである上、原告らに対して指定された仮換地は、高架道路に接近し、かつ4で述べるように分割されていて、特別の便益があると認めることはできず、本件仮換地指定はこの点でも照応の原則に適合しない。
4 形状について
本件仮換地指定は、別紙図面二のとおり、間口約二七・四四メートル、奥行き平均約九八・七七五メートルの一枚の長方形の整形地から、別紙図面三のとおり、各辺が約三九・〇、四・九、一八・六、五・〇、三一・九、三四・八メートルの正方形に近い不整形地(第一仮換地)と別紙図面四のとおり、間口約二〇・〇メートル、平均奥行きが二二・三メートルの正方形の整形地(第二仮換地)と分割仮換地するものである。
被告は、本件従前地が著しく大きいため、分割仮換地とならざるを得なかったと主張しているが、被告自身については前記のとおりかなり広い五枚の土地を一枚として仮換地をしている。
したがって、原告らに対する仮換地を分割することが合理的かどうかにも疑問があり、本件仮換地指定はこの点でも照応の原則に適合しない。
三 右のとおり、土地区画整理における仮換地の照応の原則を被告主張のとおり総合的に判断しても、価格、位置、地積、分割仮換地のいずれにも疑問があり、本件仮換地指定は全体としても照応の原則に反するものといわなければならない。
被告は経済的な価値を重要視していることがうかがわれるが、経済的な価値のみが照応するからといって、照応の原則が満たされるものではなく、しかも、本件では右の点にも疑問があるのは前記のとおりである。
第四 結論
以上の次第で、他に有利な仮換地を受けた者がいるか否かの点を判断するまでもなく、本件仮換地は照応の原則に反して違法であるから、これを取消し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 近田正晴)